生産緑地の指定を受けると、多くのメリットがあります。
具体的には以下のようなメリットです。
- 相続税の納税猶予
- 固定資産税の大幅な減額
ですが、生産緑地に指定された土地をそのまま継続するのか、買取るのか、最近話題になっていますよね。
そこでここでは、以下のような内容をお話ししていきます。
- 2022年に「生産緑地」の期限が切れる。宅地転用や売却に関する制限が緩和される一方、固定資産税や相続税の負担が増えることも。
- 生産緑地法の改正で、新たに「特定生産緑地制度」が新設される。
- 後継者問題を含め、相続後も農業を継続できるか検討すべき。
それでは、まいります。
2022年から固定資産税が100倍に?
埼玉県南部で農家を営む家に婿入りしたCさん。
自身はずっと会社勤めでしたが、1年ほど前、定年より少し早く退職し、家業を継ぐことにしました。
サラリーマンから農家への転身に周りは心配しましたが、本人はいたって前向きです。
「農業は初めてですが、サラリーマン時代から、休みの日には家を手伝いながら義父の様子を見ていたので、さほど戸惑いはなかったですね。会社勤めとは違って、屋外で身体を動かすのはむしろ性に合っていて、楽しんでいますよ」
そんなCさんにもひとつ気がかりがあります。
義父が農業を営んでいる農地の多くが「生産緑地」の指定を受けており、2022年に期限切れを迎えるのです。
義父はまだ農業を続けたいようですが、将来を考えると、一部を宅地にして賃貸マンシ
ョンを建てるといった選択も考えられます。
しかし、そうすると固定資産税が100倍以上にアップすると聞いてCさんはびっくり。
また、義父は祖父から農地を相続した際、相続税の納税猶予を受けており、もし宅地に転用したら利子税を含めて猶予されていた相続税を払わなければならないかもしれません。
Cさんには長男と長女がいますが、おそらく将来、農業を継ぐことはないでしょう。
先々のことを考えても、一家にとって大きな決断の時期を迎えているとCさんは感じています。
「生産緑地」の指定が期限切れに
都市農家のみなさんにとって、「生産緑地」は避けて通れない重要な問題になっています。
なぜなら、三大都市圏の特定市の農地について、固定資産税と相続税が大幅に軽くなる「生産緑地」制度が2022年以降、順次期限切れを迎えるからです。
生産緑地は基本的に、都市部の農地を守ることを目的としています。
そのため、勝手に建物を建てたり、農地以外に転用したりできない一方、固定資産税や相続税が軽減されています。
また、次のどれかに当てはまれば、生産緑地の所有者は市区町村に対し生産緑地の買い取りを申し出ることができるとされています。
- 指定告示日から30年経過したとき
- 主たる従業者が死亡したとき
- 主たる従業者がなんらかの故障によって農業に従事することが困難になったとき
自治体は生産緑地の買い取り申し出があると、時価で買い取ることになっています。
ところが近年は自治体の財政難から、ほとんど買い取ることはありません。
買い取りが難しい場合は、ほかの農業従事者に買い取りをあっせんすることになっていますが、生産緑地を買い取って農業を行おうという農家もまずいません。
多くの場合、生産緑地としての制限が解除された後、都市計画の変更手続きが行われ、自由に宅地化できる農地(「宅地化農地」)として、建物を建てたり、宅地として売却したりすることになります。
誤解のないよういっておくと、3年が経過すると、生産緑地の指定が自動的にはずれるわけではありません。
自治体への買い取り申し出が可能になるだけです。
しかし、それをきっかけにほぼ指定ははずれます。
そうすると、農地を自由に利用したり処分したりできる一方、固定資産税や相続税の負担が跳ね上がるのです。
そもそもし「生産緑地」とは何か?
繰り返しになりますが、「生産緑地」とは首都圏、中部圏、近畿圏の三大都市圏の特定市にある市街化区域において、農業を続けることを条件に固定資産税や相続税が大幅に安く抑えられている農地です。
市区町村が毎年課税する固定資産税について、三大都市圏の市街化区域農地は本来、周辺の宅地並みに評価されるため、税額が10アール(1000㎡)あたり数十万円になることが珍しくありません。
しかし、生産緑地に指定されると農地としての評価になるため、固定資産税は10アールあたり数千円レベルですみます。
また、固定資産税のベースとなる評価額は3年に1度見直され、地価が上昇すれば評価額も上がります。
しかし、生産緑地については、評価額の見直しによる税額の上昇幅についても低く抑えられています。
相続税については、市街化区域内の農地を相続する場合、相続税の計算のベースになる評価額は、周辺の似たような宅地の評価額に連動します。
生産緑地も同じです。
ただ、生産緑地も含めて農地には、相続税の納税猶予制度があります。
本来の相続税額のうち「農業投資価格」(1㎡あたり数百円程度)を超える部分に対応する相続税の納税が先送りされ、さらに一定の条件を満たすと免除されるのです。
とはいえ、農地の相続税の納税猶予制度には厳しい要件があります。
特に、三大都市圏の特定市にある「生産緑地」の場合、相続人が一生農業を続けなければなりません。
途中で農業をやめると、それまで猶予されていた相続税に加え、猶予されていた期間に応じた利子税の支払いが発生します。
このように、三大都市圏の特定市にある市街化区域内農地は、固定資産税や相続税の負担は重いけれど宅地化が容易な農地(「宅地化農地」)と、税負担は軽いものの農業を続けることが義務付けられた農地(「生産緑地」)に分かれています。
ある調査で、三大都市圏の特定市における「宅地化農地」と「生産緑地」の面積の推移を調べています。
生産緑地制度がスタートした直後の1992年に「宅地化農地」は3万ヘクタール以上ありましたが、20年後の2013年には半分以下まで減少しています。
これに対し、「生産緑地」はほとんど減っていません。
生産緑地の「2022年問題」
2022年以降、生産緑地を所有する農家が一斉に地元の自治体に買い取りの申し出を行い、多くが宅地として不動産市場で売り出されたり、新築アパートなどが建てられたりするのではないかと危惧されています。
これが「生産緑地の2022年問題」です。
果たして、2022年になるとどれくらいの生産緑地で市区町村への買い取り申請が行われ、指定解除になるのでしょうか。
いろいろなケースが考えられますが、相続税の納税猶予制度を利用しているかどうかが分かれ目になるといわれます。
相続税の納税猶予制度は、納税が一時的に猶予されているだけです。
特に、三大都市圏の特定市の市街化区域にある生産緑地の場合、一生農業を続けなければ猶予された相続税は免除されません。
猶予期間が長くなればなるほど、途中で農業をやめた際にかかる利子税も膨らみます。
そのため、指定から30年経ち、買い取り申し出が可能な生産緑地であっても、相続税の納税猶予を受けている場合はすぐには買い取り申し出を行わないケースが多いのではないかと見られています。
「生産緑地」の扱いが一部変更に
生産緑地をめぐってはまた、2017年4月に「都市緑地法等の一部を改正する法律」が成立しました。
これによって、生産緑地の扱いがこれまでとは一部、変わります。
主な変更点は3つあります。
第一に、指定面積要件が緩和されます。
従来の生産緑地では面積500m以上となっているところ、市区町村の条例によって300mまで引き下げることができます。
第二に、行為制限が緩和されます。
現在、生産緑地内においては農業生産に必要な施設のみ設置が認められていますが、農産物直売所や農家レストランなどの設置が可能になりす。
第三に、「特定生産緑地指定制度」が創設されます。
これは、指定から30年を経過する生産緑地について、自治体が利害関係者の同意のもと、新たに特定生産緑地として指定すれば、買い取り申し出が可能となる時期を10年先送りすることができるとするものです。
10年経過後に再度指定を受ければ、さらに10年先に延びます。
指定から30年経過しても、買い取り申し出せずに生産緑地を継続した場合、その後は10年ごとに買い取り申し出をするかどうかが選択できるようになるわけです。
先送りでは解決にならない
それでは今後、生産緑地の指定から30年を迎える農地を所有する都市農家のみなさんは、どうしたらよいでしょうか。
基本的に、相続税の納税猶予制度を利用しているかどうかで判断は大きく分かれると思います。
相続税の納税猶予制度を利用していないのであれば、生産緑地の買い取り申し出を行うというのが有力な選択肢です。
買い取り申し出により生産緑地の指定がはずれれば、農業を続ける義務はありません。
いまはまだ元気で農業を続けられるとしても、いずれ健康を害したりすれば難しくなるでしょう。
また、後継者がいなければ、やはり農地として維持することは無理です。
いつまでも現状維持を続けるより、指定から30年をひとつの区切りにするほうがいいと思います。
固定資産税の負担は跳ね上がりますが、それは周辺の宅地と同じレベルです。
むしろ、アパートや賃貸マンションを建てたり、あるいは宅地として売却したりするなど、いろいろな手を打つことができます。
相続税の納税猶予制度を利用しているなら、基本的に生産緑地のまま農業を続けるという判断になるでしょう。
相続からの年数が長くなればなるほど、納税猶予の打ち切りによる利子税が多額になるからです。
そして、次の相続が発生し、猶予されていた相続税が免除された段階で、農業をさらに続けるかどうかを検討することになります。
農業を続ける場合、従来の生産緑地のままか、新しい特定生産緑地の指定を受けるかのどちらかですが、税制上の扱いはまだはっきりしません。
しかし、先ほどと同じで、しばらくは元気に農業を続けられるとしても、やがて健康を害したりすれば難しくなるでしょう。
また、後継者がいなければ、農地として維持することは無理です。
都市計画など専門家の間では、都市部の貴重な緑地として「生産緑地」をなるべく残すべきという意見も強いようですが、生産緑地を所有する都市農家のみなさんの判断はまた別です。
次の相続が発生した段階で、生産緑地の買い取り申し出を行うのが有力な選択肢だと考えます。
もちろん、生産緑地として農業を続けるという選択もありえます。
その場合、単に農作物を育てるだけでなく、併設したショップで農作物を加工して販売するとか、併設したレストランで農作物を使った料理を提供するとか、なんらかの付加価値を付けることを考えるべきです。
いずれにしろ、現状維持で先送りしているだけでは、いずれ大きな問題に直面します。
早めの決断が重要です。
まとめ
いかがでしたか?
この記事では以下の点についてお話ししました。
- 「生産緑地」は、2022年以降、期限切れを迎える。これを念頭に、なんらかの決断を迫られる覚悟をしておく。
- すぐ買い取り申し出を行うかどうかは、相続税の納税猶予制度を利用しているかどうかで判断する。
- 現状維持の先送りは得にならない。早めの決断が結果として節税につながる。
生産緑地を継続するか、買取してもらうか、判断に迷うところが大きいですよね。
特に、「いままで苦労して育ててきた自分の農地を手放す」という点に抵抗感の大きい農家も多いはずです。
あとは後続人の考えがどうか、という点も重要ではありますが、もしも後続人がいないようであれば、やはり買取というのも一つの道になってきます。
はたまた、買取ではなく、じつはいままで慣れ親しんだ土地を別の形にすることも可能です。
それが、マンションの建築。
土地を譲渡して、マンションを建築する。
そして建築したマンションの一室に生活する。
そんな方法もじつはあるのです。
ちなみに、マンションの一室に住んでみて、「やっぱりなんだか違うな。」と思ったら、マンションの一室を売却することも可能です。
マンション売却で最近人気なのが、マンションナビ。
マンションナビは一括査定サイトで、60秒の無料査定で最大9社に査定を依頼できます。
マンションナビで査定をしてみて査定価格をみながらマンション売却をするかどうかの判断をする人も増えてきています。
もしも、生産緑地の買取に対して抵抗感があるのなら、土地を譲渡してマンション建築。そしてマンションの一室に住んで、ときがきたらマンション売却。
といった戦略もありだと思います。
なにはともあれ、後継人とまずは今後の土地運営について早めに話し合っておくべきです。